「メリークリスマス!」
プレゼントを渡すと、妹は嬉しそうに微笑んだ。
目の前にはケーキ。
これから母さんと二人で妹が切り分けてくれる予定になっている。
食事の後の楽しいひと時・・・一年に一度の時間・・・
だけど俺は丸いケーキを見ながら英二の事ばかり考えていた。
昨日英二から貰ったクリスマスプレゼント・・・ずっと欲しかった天体望遠鏡
英二がそれを俺にプレゼントする為に、ずっと頑張ってくれていた事を俺は昨日知った。
それなのに俺は・・・
七瀬さんという英二のお兄さんの友達と英二の仲を疑って・・
信じようとしながら・・・心配して・・・気が気じゃない毎日を送っていた。
だからプレゼントも考える余裕がなくて、英二のリクエスト通りの物を買ったんだ。
ニット帽
去年のクリスマスのプレゼントもニット帽だったんだけど・・・
英二が『冬はやっぱニット帽だよね』『貰えるならニット帽がいい』そう言ったから。
だけど今思えば・・・英二なりに気を使っていたんじゃないかと思うんだ。
誕生日にあげた指輪の事もずっと高かったんじゃないかって気にしていたし・・・
それに何よりも今回のプレゼントが・・・英二の頑張りが・・・・それを証明している。
きっとあの天体望遠鏡は指輪のお礼も兼ねているんだ。
昨日は英二と七瀬さんの事が誤解だとわかった事と、天体望遠鏡をプレゼントされた事で頭がいっぱいで、その事の意味に気付けなかったけど・・・
そう考えると辻褄が合う・・・
「お兄ちゃんどうしたの?ボーとして・・・ケーキ置いたよ?」
「えっ?あぁ悪い。ありがとう」
こんな事なら・・・もっとよく考えてプレゼントを買うんだった。
今更だけど・・・ちゃんと英二の気持ちの裏も読んで・・もっと気が利く物を・・・
ってホント今更遅いよな・・・あと数時間でクリスマスも終わるし・・
渡したプレゼントを無かった事になんて出来る筈もないしな・・・
「ねぇお兄ちゃん・・・食べないの?」
「えっ?あぁ・・食べるよ」
不思議そうに俺を見る妹の眼差しに、俺は目の前のケーキへホークを刺して口に入れた。
「美味しいな」
だけど・・・どうしても気持ちが落ち着かないんだ。
今更どうしようもない事はわかっている。
プレゼントだってもう用意できないし・・・
俺が出来る事なんて、何もないんだって事はわかっているんだ。
でもそれでも・・・逸る気持ちが抑えられない。
何か英二にしてやれる事はないか?
英二に・・・・
「ごめん。コレ食べたら・・ちょっと出かけて来てもいいかな?」
会いたい・・・
・・・・・・・・・・・・・・来てしまった。
来たところで英二に何をしてやれる訳でもないのに・・・・
英二だって今頃は家族と楽しいひと時を過ごしている筈なのに・・・
「どうするかな・・・」
俺は英二の家の前で自転車を止めて、家の明かりを見ながらインターフォンを押すのを躊躇っていた。
やはり今日は何も言わずに帰った方がいいかな・・・?
いや・・でもここまで来たんだ・・少し顔を見て帰るぐらいは・・・
でも何て説明する?
急に会いに来た理由・・・・何しに来たんだって、絶対に聞かれるよな?
ん〜〜・・・
うん・・そうだな・・よし・・・ここは会う前に1つ練習でもしておくか・・
「んっんん・・・やぁ英二!今日は寒いな。風邪引いてないか?」
って・・・これじゃ・・だから何なんだって話だよな。
それなら・・・
「やぁ英二!ちょっとそこまで来る用事があったからさ、ついでに来たんだけど・・」
ついで・・・は良くないか。
「やぁ英二!・・・」
・・・・そもそも・・・やぁ英二!がおかしいよな・・・
「おい!お前っ!人の家の前で何やってるんだ?」
「えっ?」
急に声をかけられて驚いて振り向くと、暗がりに人が立っている。
「ん?あれ?お前・・・大石じゃん。何やってるんだ?そんなとこで・・」
えっ・・・あっ・・・
英二の・・・お兄さん・・・・
そう暗がりに声をかけて来たのは、英二の二番目のお兄さんだった。
「こっ・・こんばんは。その英二くんに会いに・・・」
まっ・・全く気付かなかった。
お兄さんにさっきのシュミレーション・・・見られただろうか?
「もう呼んだのか?」
「いえまだ・・・」
だっ・・・大丈夫だよな・・・こんなに暗いんだし・・・
「何だ・・・ブツブツ言ってたから、もう呼んだのかと思ったよ」
みっ・・・見られてたーーー!!!!
「あっいや・・・さっきのは・・・その・・・」
「おっ!これ・・ひょっとして例の天体望遠鏡?」
俺が動揺を隠せないまま苦しい言い訳をしようとすると、お兄さんは俺の自転車の荷台にしっかり固定した荷物を触った。
「えっ・・・あっ・・はい!」
「そうか・・・大切に使ってやってくれよ。英二・・アイツ頑張ってたからな・・・
それにそれの元持ち主も大切に使っていた物だしな」
「もちろん。大切にします!」
慈しむ様に天体望遠鏡を見る英二のお兄さんの姿に俺の返事にも力が入る。
「まっ・・大石なら大丈夫か。英二なら3日で壊しそうだけどな・・・
で・・今から星を見に行くのか?」
ニシシと笑った後、お兄さんが話を本題へと戻した。
確かに・・・何もプレゼントもないし・・・何か会いに行く理由を・・・
と思って天体望遠鏡を持っては来たが・・・曇ってるんだよな・・・
こんなに分厚い雲が空を覆っていたら・・・星なんて見えない。
それなのに星を見に行くなんて・・・嘘は言えない。
「いえ・・・星は・・・」
俯きながら答えると、背中を思いっきり叩かれた。
「何暗くなってんだよ!しっかりしろ!曇ってても気合で雲を晴らすぐらいの気持ちでいなきゃ・・・星なんて見れねーぞ!」
ゴホッ・・・ゴホッ・・・と咽ながら、顔をあげると不敵な笑いを浮かべたお兄さんと目が合った。
「って・・・それの元持ち主がよく言ってる。
まぁ今日は確かに厳しいかもしれないけどな・・・駄目もとでもいいじゃん。
二人で見に行けばさ」
「・・・・はい」
「よし・・じゃあ俺が英二を呼んでやるよ」
英二の二番目のお兄さん
英二と同じ部屋だから、何度か話をした事はあったけど・・・・いいお兄さんだよな
英二の事も友達の事も大切に思っているのが、今の会話でよくわかる。
ただ・・・さっきの背中への一撃は・・・痛かったけどな・・・
っていうか、英二もそうだけど・・・ここの姉兄は手が早いよな・・・
これってひょっとして家族全員そんな感じなのだろうか?
インターフォンの前に立ったお兄さんの背中を見ながら考えていると、お兄さんが不意に振り向いた。
「あっそうだ大石」
「はっはい。何ですか?」
「俺さぁ・・実は今日予定より帰って来る時間遅れてるんだわ・・・
それでちょっと助けてくれると有り難いんだけど」
「はっ・・・はぁ・・・それはいいですけど・・どうやって?」
「大石を俺からのプレゼントって事にしていいか?」
「えっ?俺が何ですか?」
「だから大石を英二へのプレゼントにしていいか?」
「俺が・・・プレゼント・・・ですか?」
「そうそう!ちょっと英二を驚かす為にも・・・なっ?」
「はぁ・・・プレゼントになるかどうかはわかりませんが・・俺で良ければ・・・」
「んじゃあ決まりだな。少しだけ、そこに隠れててくれるか?」
「あっはい」
俺はお兄さんに言われるまま、塀の影に隠れた。
〈ピンポーン〉
「はーい」
「俺。開けて」
「チイ兄っ!今頃帰って来たのかよ!みんな待ってたんだぞ!」
「まぁまぁ・・・もう始めてんだろ?堅い事言うなよ!」
「駄〜目っ!大遅刻した罰!チイ姉が手ぶらじゃ通すなって!」
「手ぶらじゃねーよ!英二にちゃんとプレゼント用意してんだぜ」
「えっ?俺に?」
「そう英二限定だけどな」
「う〜〜〜〜」
唸る英二の声の後ろで、女の人の声が聞こえ漏れてくる。
『私達のがないなら通すな』とか『英二限定ってどういう事?』とか・・・
兎に角・・凄まじい・・・菊丸姉兄の上下関係が見えるようだ。
成り行きで俺がプレゼントって事になったけど・・・凄く大変な事になってないか?
塀に背中をつけて隠れなが様子を伺うと、お兄さんはそんな声を無視するように、英二だけに話を進める。
「きっと見たら喜ぶぜ・・英二」
「ホントに?」
「ホント!」
「嘘だったら許さないからなっ!」
そう言った後インターフォンからは、きっと英二だろう足音と・・・
お姉さん達の『英二の裏切り者―!』って声が同時に聞こえた。
英二に会いたい・・・その気持ちだけで来てしまったけど・・・・
やっぱり今日は不味かったんじゃないだろうか・・・・?
チイ兄再び登場vv私の中での彼の設定はサッカー部エースで短髪男前・・・高校2年だったりします☆
ホントのところは・・・謎ですけどね☆
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